柊
「おい、泣きだすんじゃないだろうな」
千紘
「泣きそうです。感激しすぎて」
柊
「ったく」
柊さんの腕が、私へと伸びた。
そして、優しく頭の上に手が乗って、ゆっくりと撫でてくれる。
千紘
「ッ!」
ぱあっと顔が赤らんだ。不意に優しく柊さんの目が細められる。
柊
「よくやったよ。
まず第一に、よく逃げ出さなかった。それに俺のいやみにも耐えた」
千紘
「……ありがとうございます」
自分の中にじわじわするものがあった。
千紘
(不思議……撫でられてるだけで、胸が熱くなる。勇気が湧いてくるみたい)
柊
「だけど、本番はこれからだから」
千紘
「また、頑張ったら、撫でてくれますか?」
柊
「ああ。こんなんでいいなら」
千紘
「いいです。すごいご褒美をもらった感じがします」
柊
「お手軽なやつだな」
千紘
「柊さんの、なでなでは、めったにもらえません。
だから、すごいご褒美です」
柊
「……じゃあ、せいぜい、この後も、がんばれよ」
千紘
「はい」
柊
「精いっぱい、な」
柊さんの手が最後にポンポンと軽く私の頭を叩いて、すっと離れていく。
それがとても惜しくて、胸がぎゅっと締めつけられる。