一樹
「気をつけて降りてください」
千紘
「はい」
そう言われたのに、足を滑らせてしまう。
千紘
「きゃっ」
一樹
「危ない!」
落ちると思って、全身を縮めるようにして目を閉じた。
けれど、ふわっと浮くように抱きとめられる。
恐る恐る目を開くと、真剣な表情の一樹さんが覗きこんできた。
一樹
「大丈夫ですか?」
千紘
「は、はい」
怖かったのと、抱きとめられた戸惑いで私の鼓動は速まるばかり。
一樹
「怖かったんですね」
そう言われてわずかに照れつつも、抱きとめてもらえた安堵の笑みを浮かべる。
千紘
「びっくりして」
一樹
「もう、大丈夫ですから。私は落としたりしませんよ」
千紘
「は、はい」
触れたところから伝わってくるのは、無駄のない筋肉の張り。
そんなことにも、どきどきするのだ。
一樹
「そんなに見ないでください……。私の鼓動の速さに驚いているんですか?」
千紘
「えっ」
千紘
(それは、きっと私だって同じ……。でも、一樹さんもなら、どちらかわからないかも)
変なことに安心したりする。
一樹
「ゆっくり下ろします」
千紘
「どうも、ありがとうございました」
言葉通りに、一樹さんは私の足を床に静かにつけた。
それでも、まだ心臓がドキドキしていて、拳をぎゅうっと握りしめてしまう。