混乱していると、急に莉玖くんが声をあげた。
莉玖
「ねーねー。
ボク、新しいマジックを覚えたんだけど見てくれる?」
もやっとした空気が、パチンと弾けるようにして、莉玖くんへと視線が移る。
戻りかけていた樒さんも、莉玖くんへと体を向けた。
莉玖
「ジャーン」
莉玖くんが、何もないところから花を取り出す。
同時に、ぱあっとキラキラした紙吹雪が舞った。
千紘
「わあ、きれい……」
しばらく、きらめく紙吹雪を見あげる。
千紘
「すごいですね。どうしたら、そんなことができるんですか?」
私が手を叩いて喜ぶと、莉玖くんは照れて赤くなる。
莉玖
「練習したからね」
一樹
「莉玖は、いろいろと器用ですから、こういうことも得意なんですよ」
千紘
(器用でも、ここまでは……)
私は、ひたすら感心する。
千紘
「それでも、すごいです。いっぱい練習したんですね」
莉玖
「まあね」
ぱあっと顔が明るくなって、少し得意げ。
そんな顔も、莉玖くんは、かわいい。
莉玖
「マジックの基本は、ないものをあるように見せて、
あるものをないように見せることなんだよ」
千紘
「へえ」
柊
「詐欺師の論法だな」
一樹
「『無中に有を生ず』は、中国の策略三十六計の
第七計にあります。立派な兵法でしょう」
千紘
(なんだか、ふたりらしい意見)
莉玖くんも、肩をすくめて、私のそばに来た。