劇は、途中で魔法使い役であるクゥちゃんが本気で牙をむいて暴れるというアクシデントは
あったものの、最後までやり遂げることができた。
千紘
「最後までご覧いただきまして、ありがとうございます。出演者一同、大変感謝しております」
出演者全員で舞台後のあいさつをする。
一樹
「ありがとうございます」
一樹さんは、とっても折り目正しいご挨拶。
衣装の執事服がこんなにハマる人もなかなかいないんじゃないかなって思ってしまう。
柊
「無事に終えられた……」
柊さんは、緊張か疲れか、それともその両方なのか、軽く放心状態。
小さく独り言のような言葉がため息と一緒に出てきたみたい。
棗
「ありがとう」
普段は下ろしている髪の毛を、邪魔になるから、と束ねて、
なんだかいつもとちょっと違って見える棗さんが、にっこりと微笑んで言った挨拶には、
一際高く、キャーと女性の黄色い声が飛んだ。
葵
「みんな、愛してるよ」
すると葵さんが、棗さんに負けじと愛嬌をふりまいてサービスのウインク。
葵さんらしい挨拶、なのかな……?
莉玖
「ボクの王子様、かわいかった?」
にこにことお客さんを見回していた莉玖くん。
うずうずと問いかけた言葉に、お客さんから満足いく反応を貰えたみたいで、
その笑顔はもっともっと嬉しそうに輝いた。
樒
「……ガオー」
台詞どころか挨拶まで“ガオー”を通した樒さん。
こだわりとかじゃなくて、きっと他に話すことが思いつかなかっただけ、かもしれないけど……
一通り、挨拶が済んで、あとは全員でお辞儀して退場……と思ったそのとき。
クゥ
「にゃー」
まるで自分を忘れてるぞ、とばかりに飛び出したクゥちゃんが、
私が持っていたブーケを口にくわえて逃げ出した。
千紘
「あ、クゥちゃん」
クゥ
「にゃにゃー」
樒
「ガオー」
最後は、慌ただしい幕引きになってしまった。