驚きと恐れで震える私の前に、さっと樒さんが立ちふさがった。
いつもは頼りなく見える、ひょろりとした背中が、大きく頼もしく見える。
勢いよく広げられた手からは、幸葉さんを私に近づかせないという意志を感じた。
樒
「だめだ……。これ以上、は……近づくな」
いつもより大きくはっきりとした調子の言葉も心強く感じる。
千紘
(樒さんが……私をかばって……)
幸葉
「まあ!!」
幸葉さんは、大きく目を見開いた。
その驚いている様子を見て、私も同じように目を見開く。
幸葉
「ふふふ。やっぱり、すごい変化ね。他人に興味を示さなかったあなたが
人をかばって、身を挺するなんて」
真剣な樒さんに比べて、幸葉さんの態度はあくまでいつも通り。
幸葉
「ここまで変わっているとは、予想外の収穫ね」
樒
「俺たちを……からかっている……のか?」
幸葉
「違うわ。とても興味深いと言ってるのよ。そうでなかったら……」
そこで幸葉さんは言葉を意識的に途切らせたようだった。
樒
「……わかってる」
千紘
(えっ? 何を?)
幸葉
「そうよね。樒なら、わかるわよね」
樒
「手を……出すな……」