莉玖
「ほら、泣かないで。ボクが絵本を読んであげるよ」
泣きじゃくる私に向かって男の子はそう言うと、床に絵本を広げて置いた。
千紘
「本当? 嬉しい」
私は泣きべそ顔のまま、男の子の隣に、ぺたんと座る。
莉玖
「その代わり泣きやむんだよ」
千紘
「うん。頑張る」
莉玖
「いい子だね」
男の子が私に優しく微笑んでくれる。つられて、私も微笑んだ。
莉玖
「もっとくっつく?」
千紘
「うん。くっつきたい。あったかい方が涙が止まるの」
莉玖
「わかるよ」
親身に語り掛けられる言葉ひとつひとつが、私の心に灯をともすように、温かい。
千紘
「じゃあ、くっつくね」
莉玖
「うん。くっつくと温かいし、君の温もりは優しいから好きだよ。君は手も優しいしね」
千紘
「手が優しいなんてあるの?」
莉玖
「あるよ。ボクに触れるとき、とても大事そうに扱ってくれるもの。
壊さないように、破れないように、とてもとても慎重にね」
千紘
「破れないように? くすくす。おかしいよ。人間は破れたりしないよ」
莉玖
「そうでもないよ。人間だって心が壊れたり、破れたりする人がいるんだよ」
千紘
「あ、知ってる! ハートブレイクって言うんでしょ。失恋のことだよね」
私が無邪気に言うと、男の子は優しく目元をさげた。
まるで見守るようなまなざしに、私は安堵してますますにこにこと、頬がゆるんだ。
その後、男の子は、いっぱい読み聞かせをしてくれた。
涙を忘れるまで、寂しさを忘れるまで。
その優しい思い出が、そのとき感じた気持ちと一緒に蘇ってくる。