棗
「指を立てて、じっとしててね」
千紘
「は、はい」
棗
「すぐ済むから」
棗さんが、そっと優しく私の手をとる。それだけで、鼓動が早くなった。
千紘
(棗さんの手……あったかい……)
棗
「少しきつめに巻くよ」
千紘
「……っ」
絆創膏が私の指の傷をきゅっと包んだ。まるで、壊れやすい宝物でも扱うような手つき。
優しく丁寧にされてるのがわかるから、ドキドキと高鳴る胸が落ち着かない。
棗
「痛い?」
千紘
「平気です」
棗
「じゃあ、出来上がり」
きれいに絆創膏を巻き終えた私の指をそぅっと撫でる棗さん。
千紘
「ありがとうございます」
棗
「別に、これくらい」
にっこり微笑む棗さんの笑顔は、焼きたてのホットケーキの上で黄金色にとろけるバターに似てる。
千紘
(それとも、私が、そのバターみたいにとけちゃってるのかな……なんて)
手当ての終わった指を、私はさっと背中側へと隠した。
なんだか恥ずかしかったから。