棗さんの指が、口の端をそっと指している。
棗
「クリームが、ついてる」
千紘
「え、あっ」
棗
「じっとして、取ってあげるよ」
千紘
「……っ」
ぐっと近寄ってきた棗さんが、視界の中でぼやける。
それだけ、一気に距離が詰まったということ。
棗
「……」
ぺろりと熱い舌の感覚を、口元に感じた。
少しざらりとしていて、クゥちゃんに舐められたときのことを思い出す。
千紘
(舐めて、とってくれてるの!?)
驚いて目を見開いてしまう。一瞬ぴくりと肩を揺らしたけれど、後は動けない。
ただ受け入れる。
だって、相手は棗さんなんだから、嫌がる理由がない。
千紘
(心臓が痛いくらい鼓動してる……)
甘いお菓子の香りが、あたりに立ち込めた気がした。
まるで空気まで蜜色に染まるようだ。
キスをされてるのと同じだと気づいたときには、頭の芯が、ぼおっとなった。
千紘
(このまま唇にキスされたら、どうしよう……)
そうなってもきっと拒めない。そんな予感があった。
ふっと棗さんが離れる。
その顔には笑みが浮かんでいる。棗さんはきっと私の内心などお見通しで
わかった上での行動だったのだと、その微笑を見てわかった。
千紘
「……ありがとう、ございます……」
きっと顔が真っ赤になっているに違いない。
棗さんと目を合わせられなくて、うつむく。
恥ずかしくて、しばらく顔をあげられそうにない。
そんな私を、棗さんが微笑みを浮かべたままずっとずっと、見つめている――