【霖】
「おや、雨が降り出したみたいだよ」
雨音が耳に心地いい。
つい、うとうととしてしまう。
【霖】
「でも、通り雨だ。空は明るい」
【沙耶】
「狐の嫁入り、ですっけ? ふぁ……」
【霖】
「姫さん? 眠いの?」
【沙耶】
「はい、ちょっとだけ……」
【霖】
「少し休んでいくかい?」
【沙耶】
「じゃあお言葉に甘えて……」
ころんと寝転がって、頭を東雲さんの太腿の上に乗せる。
驚いた表情の東雲さんと目が合う。
【沙耶】
「えへへ……」
【霖】
「ちょ、姫さんっ」
【沙耶】
「ダメですか?」
【霖】
「ダメじゃないけど……」
はあ、と大きなため息。
見上げた頬がほんのり赤い。
【霖】
「ねえ、姫さん……オレ、こういう不意打ちに弱いって知ってた?」
【沙耶】
「さあ? 知りません」
【霖】
「こら。嘘はダメだよ」
ちっとも怒っていない、優しい声でわたしをたしなめる。
眼鏡の奥の瞳も穏やかに細められていて、
目が合うだけで心臓の鼓動が早くなったような気がした。
【沙耶】
「手、握ってもらってもいいですか?」
【霖】
「ああ、いいよ。これでいいかい?」
指が絡み合う。
【霖】
「いつもこうしていたいね」
やわらかに降る雨のように、胸に東雲さんの言葉が染みこんでいく。
【沙耶】
「――東雲さん、大好きです」
そっと目蓋を閉じる。
眠っているときでも東雲さんと触れ合っていたい。
繋がりを感じていたい。
そうでないと、このひとはすぐにどこかへ消えてしまいそうだから。
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