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わたしは小走りで前を歩く男に近付くと走りながら男の背中に声をかけた。

沙耶「あの! すみませんが……」

????「…………」

男は速度を緩めずそのまま歩き続ける。
聞こえていない?それとも無視を決め込んでいるわけ?

沙耶「だったら……」

前に回ったわたしは、その時初めて、
男の顔を真正面から見た。

ノノさんだったら、
カッコイイと評するかもしれないその顔に
思わず一瞬ひるむ。

????「…………」

ところが彼は相変わらず
そのまま通り過ぎようとした。

思わず声を荒げてしまう。

沙耶「あの! すみません!」

男は初めてわたしの存在に気付いたかのように
わたしの顔を見ると、訝しげに眉をひそめた。

沙耶「わたし、あなたに言いたい事があるんです!
   あのですね……」

????「ええっと……俺、貯金とかはないから?」

沙耶「……は?」

????「キャッチセールスとかは間に合ってるんよ。
   じゃ、そゆことで……」

きょとんとしたわたしの横をするりと抜けて
男はずんずんと先に進んで行く。

沙耶「ちょ……ちょっと!キャッチセールス?
   キャッチセールスって……」

周囲の田園風景をぐるりと見ながら、思わず叫ぶ。

沙耶「こんな田舎で、制服姿で、
   どうしてキャッチセールスと判断するかと……」